『ファミレスを享受せよ』あれこれ

ストーリーを補完したりキャラクターの言動に対するわたしの解釈を示すようなものではありません。作っているときに考えていたこととか、技術的な話なので、そういう部分が気になるなら読むといいかもしれません。つい人前でいろいろ喋りたくなってしまうのをここに隔離している感じです。あと、こういうのを書いておくことでポートフォリオ的に使えるかも、という下心もあります。なんて賤しい人間!ネタバレはあるのでクリア後に読むのがいいかも。

ゲームシステム

永遠の深夜のファミレスを作りたい、という気持ちが先行で、その後にシステムを考えていきました。戦闘とかはなさそうなのでノベルゲームのような形になりそうだな、と思いましたが、ゲームとしての面白さも持たせたい、というか、受動的なゲームプレイになるのを避けたいという気持ちもありました。そこで、メトロイドヴァニアの新しい能力を入手して行けるところ/できるとこが増えるという楽しみを参考に、新しい話題を入手する度にできる会話と情報が増えていく話題システムを導入しました。

それでもゲーム前半の単調さは不安だったので、当初はストーリーの希求力となるように思わせぶりなジャンプスケアなどの突発的に発生するイベントを入れようか迷いましたが、時間の都合などもあり入れませんでした。結果的にそれでよかった気がします。

ドリンクバーは、ゲームでドリンクバーが使えたら嬉しい!という気持ちで実装しました。ストローはドリンクバーをゲーム性に組み込むための要素です。あくまでファミレスを逸脱しないゲームプレイになるようにしました。

文章・ストーリー

フォントや画面構成の兼ね合いもあるのですが、テキストウィンドウの一度に表示可能な文字数を少なめにすることで、制限による独特な文体を生み出すことを狙っています。

いじょシチュ映画(わたしが勝手に使っている言葉で、異常なシチュエーションそれ自体を作品の魅力として売り出している作品のことです。ハイコンセプトみたいな……)が好きなのですが、状況と真剣に向き合いすぎるあまり悲惨でグロテスクなものになったり、明らかな風刺になりがちなのは好きではないので、異常な状況それ自体を描きつつも健全で明るいストーリーになるように心掛けました。

永遠がテーマのひとつなので、停滞した世界を描くことになります。そのため、既に多くの出来事は起きていて、会話を通して過去を探っていく、という形のストーリーになりました。メタフィクションというほどではありませんが、停滞した内省の世界ゆえ自己言及的な文章が多めです。そして主人公のアクティブさが状況を動かしていきます。

間違い探し

サイゼリヤ。ここに限っては、プレイヤーではなくわたしが楽しむために作った要素です。2ページ目にひとつ抜けてるポイントがあったっぽいですね。ごめんね。修正はあまり期待しないでください。跋文はP・オースター『ガラスの街』のピーターや宮沢賢治の文体を参考に語りの凄みが出るように書きましたがうまくいったかはわかりません。

永遠を表現するにあたって、途方もなさを感じてもらう意図で実装しています。自動でやってくれるようになってからもちょっと長いな、ってくらい時間がかかるようにしています。BGMも単調です。あまり周回プレイされることは想定していなかったので、何度もやるときは面倒かもしれません。わたしもテストプレイ時は動画とか観ながらやってました。周回時は楽に開ける方法もありますが……。

ここで詰まる人もいるかもしれませんが、自分で色々と試してもらった末に「これほんとうに総当たりでやるしかないの?」みたいに思って欲しいのでちょっと不親切めです。ゲームを作るときは、遊んでくれる人のゲームリテラシーを信頼してシステムをデザインしています。没入感を高めるために、テンポを損なうようなチュートリアルもなるべく作りたくないです。

デッサン力や人体構造の把握には自信がないので、味というか、雰囲気が出るように工夫しました。二値ペンでガリガリ描くのがけっこうやりやすかったです。修正がしやすいのもありがたいです。線はふにゃふにゃしている方が静謐で弛緩した雰囲気に合うかと思いそのようになっています。色の数が少ないのは独特の雰囲気を出すだけではなく手間を減らす意図もあります。

一番最後に実装した部分です。机が狭くてmidiキーとペンタブを同時に置けないので……。BGMとSEどちらもREAPERとSerumで実装しています。ちょうどいい時期にフロクロさんのDiscordのDTMサーバーが開設されたので助かりました。音を実装したら途端に雰囲気が出たので、はやく手をつければよかったです。

BGMは家にある電子ピアノで即興でいろいろ弾いてみて、それをもとに打ち込んでいきました。ゆえに音の数が少なめです。『テーブルを囲んで』は『take5』と『my favorite things』、『月に座るひとり/ふたり』は『光の旋律』と『海の見える街』に強く影響を受けています。あとは「how to make lofi-hiphop」とかで調べてひーひー言いながら作りました。あまり自信がなかったのですが、褒めてくれる人がいて嬉しかったです。

わりと直接的に影響を受けているもの

杞憂だと思いますが、ここであげた作品等に迷惑をかけるようなことはしないようにしてください……。

ヒグチアイ『永遠』『前線』
深夜の永遠のファミレスというモチーフのもとに。どちらもとてもかっこいい曲なのでおすすめです。

P・オースター『ムーンパレス』
小説に出てくる店の名前をそのまま使用。小説ではチャイニーズレストランです。月のモチーフのもとに。内容は関係ないです。

少女☆歌劇 レヴュースタァライト
好きすぎる……。原点。光。わたしは暗い性格なので、眩しいくらいに明るい前向きな作品が好きです。闇属性が光属性に弱い、というのと同じです。

パーム・スプリングス
ループもの映画。中盤のふたりで過ごす永遠を受け入れて満喫するパートが大好きです。苦しいのは永遠ではなく孤独、みたいなことを感じました。

マーベル映画
精神の状態が悪い時にDisney +に契約して、脳のリソースを消費するために一日中観ていました。ひととおり観ることで、創作物ってたいてい定命の人間が人間のために作っているから永遠を肯定する、という結論になりにくいんだ、と思うようになりました。ヒーローは異常な力で普通な世界を守る。

帽子世界
フリーゲーム。状況のシリアスさに対して、メインキャラクター全員がまじめで責任感が強く、純粋な悪意で動くような存在がほとんどないのがいいです。システム先行でとてもおもしろいストーリーを作っていてすごいです。

安部公房『人間そっくり』
名著。安部公房が大好き。SF部分、というかリアリティに対する態度を参考にしています。

メギド72
とても面白い群像劇。主人公にしっかり人格があるのがいいです。

Dédouze
blenderでグリースペンシルなどを使った美しい作品を作っている人。夜のきらきらした配色に強く影響を受けています。

ソウルシリーズ
テキストの雰囲気を参考に。独特な接続詞とか。王の服装はエルデンリングの貴族シリーズを参考にしています。エルデンリングは貴族シリーズに人形兵の頭を装備した見た目が一番気に入ってました。

ここに挙げたものは直接的な影響を受けているものです。ほかにもたくさんの作品から影響を受けていて、それらへのラブレターのような気持ちでゲームを作っている部分もあります。

名前

キャラクターの名前は、あまり被らなそうで語感がよく覚えやすいようなものにしています。これには、わたしが人の名前を覚えるのが極めて苦手というのもあります。特に現実にいるような名前だと覚えられません。

ツェネズ→ツェねずみ
レイルロード・スパイク→ 線路と枕木を固定するための釘らしいです
ガラスパン→響きの美しさが気に入っています
セロニカ→華奢で聡明なイメージ
クライン→クラインの壺
ラテラ→la terre(地球)
ラーゼ→覚えていない……アミラーゼとかから?5人が集まるシーンで必要になってとっさに考えた
セレニテスくん→ギリシャ語で月らしい。うろ覚えなのですが、古いSF小説で月の住民をセレ二テスと名付けていました。

その他

クラインの背後の椅子はラダーバックチェアのオマージュです。背もたれが高いと……嬉しい!

世間知らずのお嬢様ゆえ、ファミレスにほとんど行かないので勘で作り始めました。途中で取材と称してファミレスに行きました。楽しかったです。

『ファミレスを享受せよ』というタイトルはなんか『猫と和解せよ』っぽくてインターネットすぎる気がして、これでいくか最後まで迷っていました。

プレイ時間30分は勘で書いたのですが、ぜんぜん違ったみたいです。でもめっちゃ急いだらこのくらいかも。

見える感想は見てます。ありがとうございます。イーヒッヒッヒッヒッ!